今日は突然だから取り乱したが、明日から建設的に将来のことを考えなくては。

 看護師生活で培った強靭な精神で、亜里は前を向こうとした。

(今夜は推しに活力をもらおう)

 涙を拭き、イヤホンから流れる音声に集中する。

 画面の推しに見入り、ふらふらと道のはじっこを歩いていると。

「なんだあれ!」

「危ないぞーっ!」

 交差点で信号無視をした一台の乗用車に、一斉にクラクションが鳴らされる。

 イヤホンをしていても、亜里は異変に気づいた。

 顔を上げると、すぐそこに暴走した乗用車が近づいてきていた。

 運転席にいる老人が気を失い、ハンドルに突っ伏している姿。

 それが亜里がこの世で見た最後の光景となった。

 乗用車は歩道に突っ込み、亜里を含め何人かの歩行者を巻き込んで、そのまま建物に激突して停まった。

 亜里は苦痛を感じる間もなく、あっさりと意識を手放した。

 路上には画面がひび割れた血まみれのゲーム機が転がっていた。