ただアリスは、それは彼女の得意な演技だろうと思っている。
(素直に反省するような女じゃないもの)
ソフィアはアリスを睨み、頬に大げさに貼った湿布を見せつけるように、正面に座った。
「どうして王太子妃を叩いた君には、なんの処罰もないんだ。痕が残ったらどうしてくれる」
まだ国王が来ないと判断したのか、アーロンまで露骨な態度で悪態をつく。
「いいのです。取り乱した私が悪かったのですわ」
「ソフィア、あのときは仕方なかったんだ。自分を責めないでくれ」
もうこのバカバカしい夫婦漫才のようなやり取りにも飽きた。
ルークとアリスは華麗にスルーする。そのとき、「国王陛下のお成り」と声がかかり、重いドアが開いた。
「待たせたな」
ゆっくりと歩いてきた国王の後ろから、ひとりの女性がついてきた。
「母上……!」
ルークが腰を浮かせた。ビックリしたアリスが女性をよく見ると、なるほどルークによく似ていた。
まるで金の絹糸のような髪、白皙の肌。おそらくもう四十代であると思われる年齢を、微塵も感じさせない。



