見慣れたオープニング動画が流れ始めると、亜里の台風時並みに荒れていた心が落ち着き始めた。

 しかし、油断をすると皐月の姿が脳裏に浮かび上がる。

 彼女は着実に、現実での幸せをつかんだのだ。

 内外共に磨き上げ、医師と言う高い地位の男性を伴侶に選んだ。

 辛い仕事をしなくても、食べていける。いや、食べていけるなんてけち臭い語で表してはいけない。

 愛する人がいて、お金があって……これから家族が増えて、もっと彼女の周りは愛で溢れていくことだろう。

(比べて、私はどうだ)

 毎日の辛い仕事で精神も肉体もすり減っていく一方。一生懸命看護をしても、患者も家族もそれが当たり前で、亜里に愛情を抱いて接してくれるわけではない。

(感謝をされたいわけじゃない。でも、報われなさすぎる)

 唯一、キツイ仕事の代償は給料だ。微妙な企業に就職した男性よりも、亜里の給料とボーナスは高い。

(だけど、だけど……さみしい)

 お金は大事だ。お金があるからこそできることはたくさんある。

(それだけで人は生きていけるのか?)

 ふらふらと歩きながらゲーム機を見る亜里を、周囲は避けて通る。

(いや、難しく考えるのはやめよう。正直に言う。羨ましい! 羨ましいんだ! 私は皐月が羨ましすぎる!)