ジョシュアが吐血し、アリスが止血処置をしたという噂は、翌朝には城じゅうに広まっていた。

 生みたて卵のチーズオムレツを口に運びながら、若い隊員が他の隊員に話しかける。

「うまいな~。お妃様が来てから、質素でも美味いものを食べられるようになって、俺は幸せだよ」

「本当だな。お妃様が来てくれてよかった。最初はどんなに冷たい女なのかと思ったが」

「見た目がキツイからな」

 和気あいあいとした朝食時間。若い隊員たちがほのぼのと会話を楽しむ後ろから、低い声が聞こえた。

「なにがお妃様だ。あの女狐、副長に何をしたのか、わかったものではない」

 若い隊員たちが口を閉ざした。アリスを女狐と侮蔑するのは、ジョシュアの取り巻きだった。

「なんだよ。副長はお妃様に助けられたんだろ?」

「おい、やめとけ」

 がたんと席を立った若い隊員を、仲間が止める。

「吐血して倒れたのは間違いないみたいだが、その後は誰も医務室に入れなかった。今も、俺たちは副長に会うことができない」