(肝臓も膵臓も弱ってる……アル中の教科書みたいな体じゃない)

 瘤をどうにかするだけじゃなく、膵炎や肝硬変の治療をバランスよくやらなくてはならない。

(お腹が大きいのは、やっぱり腹水が溜まっていたからだった)

 腹水は肝硬変が原因で出た浸出液が腹に溜まったものだ。

 いつの間にかアリスの額も汗でぐっしょり濡れていた。

(私にできるかしら?)

 自分は看護師でもなければドクターでもない。

 アルコールの離脱症状が出た者はいたが、ここまでひどい者はここにきてから初めて出会った。

「うわあ、副長! 血まみれじゃないっすか!」

 突如乱暴に厨房のドアが開き、何人かの隊員がなだれ込んできた。

 担架に乗せられたジョシュアは、先に医務室に運ばれていく。

「いい気味だよ。お妃様の言うことを無視して好き勝手やっていたからさ」

 後ろからそんな声が聞こえ、アリスは振り向いた。

「苦しんでいるひとを前に、何を言うの。おやめなさい」

 凛とした表情で諫められた隊員は、秒で口をつぐんだ。

「私は今から処置に入るわ。ここの掃除をお願い」

「あ、はい……」

「頼むわね」

 アリスは担架で運ばれたジョシュアを追いかけ、駆け出した。