好きという名の幸せをあなたに。


さっきまで俯いていたはずの文野くんがガバッと顔をあげる


「右手のことで病院……伏見、最近左手で字書いたりしてるよな。やっぱり右手怪我してたの?」


「ふ、文野くん気づいてたの?」


「あ、…あぁ!ほら、俺よく練習終わったあと伏見に記録見せてもらいたいって頼むことあるだろ?だから声掛ける前とか左手でなんか書いているとこ見たんだ!」


「……ヘタレ」


「……?そ、そうなんだ。自転車で転んだときに手を擦りむいちゃって、右手動かしにくくなっちゃったから今日病院行って詳しく見てもらうんだ」


平山くんがなにかつぶやいた気がしたけどよく聞こえなくて、結局聞き返すことも出来ず会話を続けた。


「伏見、自転車で転けたの?」


文野くんが心配そうに眉を下げる。


「だ、大丈夫だからね!自転車で転んだって言っても手のひらと膝擦りむいたくらいだし、今も元気だから!」


キーンコーンカーンコーン


「あ、ほらチャイム鳴ったし掃除の時間だから!じゃあまたね!」


好きな人に自転車で転けたと話してしまい恥ずかしくなった私はチャイムが鳴ったのをいい事にすぐに図書室から自分の教室に戻った。


クラスが同じな平山くんにはこの後も会うことになるけど、文野くんは違うクラスだし、今日は部活出ないから明日まで会うことはない。


もう今日は会えないのか、ちょっと寂しいな……


なんて思った私は頭をブンブン横に振る。


***


「はい、それではさようなら」