『綺麗だなぁ…』



この学校には、とても綺麗に咲く…有名な桜の木がある。

有名なのは、綺麗だからと言うだけの理由ではない。

この桜の木には、いつからあるのかは分からないが…とある、一つの噂があるのだ。



《桜の木の下には、死体が埋められているらしい》



前に誰かが言っているのを聞いた。

何があったのか、死体が埋められるだなんて…きっと、この桜の木が綺麗だから言われるだけだろうけど。

だって、綺麗な桜の木の下には、死体が埋められているってよく言うから。



『…あとなんだっけ…』



確か、あともう一つ…何か噂があった気がする。

…嗚呼そうだ、思い出した。それは…



《埋められた人は、今もその桜に取り憑いている》



…そんな、噂だったような気がする。



『…馬鹿馬鹿しい、取り憑くなんてあるわけないのにね』



取り憑くなんて、まるで幽霊などが居るとでも言うかのような言い様だ。

この歳の高校生ともあろう存在が、そんな…有り得もしない存在を信じているだなんて、余りに馬鹿げた話だろう。

呆れてしまい、思わず溜息が溢れてしまう。



『…そろそろ行かないと、始業式が始まっちゃう…』



行きたくないな、なんてことを考える。

…もう少しだけ、桜を眺めてはいけないだろうか。

ちゃんと行くから、その前に…私は桜が…花が、とても好きなのだ。



『…頑張って咲いているのに、その理由が死体にされて…どんな気持ちで咲いているんだろうねぇ』



そんな言葉が口をついて出てくる。

桜の木に手を当て、そう呟く私は傍から見ればヤバい奴だし、自分でも思うほどに痛い。

それでも何故か、声を掛けたくなってしまったのだ。



『…何言ってるんだろ、私』



ぼっちを極めすぎたか、とうとう桜にまで声を掛けるようになった。

いや待てよ、ぼっちを極めているのに桜に声を掛けるとか一体何事。

自問自答をしながら軽く頭を抱え、取り敢えず始業式に出なければいけないと反対方向を見る。



「…君、その桜と話をしていたの?」



…まさか、誰かが居るだなんて。

そんなこと、思ってもいなかったから。



『…えと、あの…』

「…僕以外に、そんなことする人居たんだ」



どうしよう、僕よりずっと痛い人に出会ってしまったかもしれない。

そんなことを思いながら、目の前に現れた青年を静かに見つめた。