天馬「どうしてそんな嘘を吐くの?」
『嘘じゃないです、本当です』
天馬「その割には…君からはそう言ったものを感じる。そう言ったもの。感じる時は、大抵視えているはずなんだけど…?」
執拗い、煩い、それ以上はやめて。
『…本当です』
天馬「でも、」
『本当なんですっ…』
…視えないのだ、私には…もう。
『…私には、あの時から…もう、何も視えないんです』
天馬「…あの時…?」
…私は、二年前…とある事件に巻き込まれた。
その時から、もう…何も視えなくなってしまっているのだ。
『…話はそれだけですか、それならもう帰りますけど…』
天馬「…待って、」
『何ですか』
天馬「視えないなら、どうして…」
新道「蒼司」
天馬くんが何かを言おうとすると、先程から黙って私達の話を聞いていた先生が声を出す。
その声に天馬くんは黙り込み、先生は私の方を見る。
新道「…悪かったな、そう言うことなら無理にとは言わねえ。だが…お前はどうやら“好かれやすい”体質だ。そのことに代わりはない」
『…あの、そもそも好かれやすいって…?』
新道「たまに居るんだよ、そう言う体質って言うかの奴が…お前はたまたまそう言う奴だったってことだ。いつ何が起こるか分からねぇような…」
随分と、物騒なことを言われているような気がする。
だが私にはそう言うのはもう視えない…だから、平気な気がする。
『…ご忠告ありがとうございます』
そう言いながら帰ろうとすると、私の腕を掴んでくる天馬くん。
『…何ですか?』
天馬「…もし、何かあったら」
私の見つめる天馬くんの目は…何処か冷めていて、少し恐怖を感じてしまう。
そして天馬くんは…そのまま、静かな声で言った。
天馬「僕の名前を呼んでよ。いつでも助けてあげるから」
そう言った天馬くんは、顔に薄く笑みを浮かべる。
整った顔をしている彼がそんな表情をすると、いくら他人に興味のない私でも見惚れてしまう。
黙り込んでしまうと、天馬くんは掴んでいた腕を離す。
天馬「帰るんだよね?」
『え、…あ、はい』
天馬「じゃあ気を付けてねーばいばい」
手を振ってくる天馬くんには、先程までの不思議な雰囲気も何もなく。
『…はい』
何だったのだろう、と思いながらも頭を下げて帰路に着くことにした。
