「ごめん。ちょっとレッド寄っていい?」
電話を終えた翔輝が聞くから
「うん。いいよ」
レッドの前の駐車スペースで
「行かない?」
レッドを指差す翔輝。
「ううん。車で待ってる」
やっぱり、あんまりレッドは好きじゃない。
わたしには、
ちょっと
やっぱり別世界で
ぼーっと物思いにふけっている優香。
アウディR8の運転席のドアが開いた。
翔輝
と思ったら。
「何だよ?」
乗ってきたのは那智。
「へ?」
「何か聞きたいことがあんだろ」
めんどくさそうに言う那智。
「何?」
状況がのみこめない優香に
「翔輝のことだろ。
あんたに本気かって?
どんなやつか?
あんたの前遊んでたかって?」
畳みかけてくる那智。
なんなのこの人。
せっかちな
出来るビジネスマンか。
この前の
視線、飛ばしただけで
何か聞きたいことあるんだろうって
気付いたの?
それも、全部聞きたいことだし。
でも。
「早くしねえと
翔輝が戻ってくんぞ」
翔輝のことは
自分で知っていくから…
でも…。
優香を見て
那智が軽く笑って言う。
このひと、意地悪な笑い方するな。
「ブラアイのこと?」
「そんなもん、ネットにいくらでも
転がってんだろ」
そう言う那智に
「でも、そこにホントは
無い気がするから…。
那智くんに聞いてみたかったの」
那智が少し真剣な目になって
「汚れに決まってんだろ。
こんな集団。
何を期待してんだよ」
ううーん。わかってるけど…
「まあ、白ではねえはな。法律的にも
やっぱり…
でも
黒でもない。」
え。
「アイツはああ見えて
欲もねえし
汚いことも嫌いだし
マジ笑えるくらい
根はピュアだから。」
一呼吸おいて那智が言った。
「グレーなんじゃん。
ケンカはするけど
他に、そんな危ねえことはしてねえよ。
アイツの中で線引きがあって
ブラアイはその線引きで、やっていいこと
許されないこと。
があんだよ、
金になることだって
まっとうなことばっかだ。
うちじゃ、アイツが法律だから。
その線引き…受け入れるかは
あんた次第なんじゃね」
そんな那智の見解に
ちょっとホッとした様子の優香。
だって、それなら大丈夫な気がする。
翔輝を信じてるから。
翔輝なら…。
そんな優香に
「もし、おれたちがいちゃついてたら
アイツどうするかな。」
那智が何でも無いことのように言った。
は?
那智が優香を見た。
?
那智が運転席から身を乗り出してくる。
嘘でしょ?
何?
近づく那智の瞳。
咄嗟に出た優香の、手は
軽く那智に捕まれる。
「あんた親友なんでしょ!
こんなことしたら…
ダメでしょっ!
自分が後悔するよ!」
優香のキレた声がアウディに響いた。
その剣幕に
その言い方
「かあちゃんかよ」って
那智が笑う。
だから、笑うとこ?
このひとわかんない。
しかも、またオカンって言われたー。
ショック。
なのに、何かこのひとは
嬉しそう?
何でよ。
「ま、
翔輝をよろしく頼むわ」
そう言って那智は降りて行く。
なんなのー?
さっきのは、冗談…だったみたいだけど。
あのひと…掴み所ないわー。
レッドから出てきた翔輝が那智に気づく。
「何?」
那智は少し笑って言う。
「いや。
何か…笑えるな」
「?」
「お前が惚れた女。
笑える」
そう言って那智はレッドに消えて行った。
レッドのVIPルームで
那智に大輝が聞く。
「翔輝さんは?」
「帰った」
「そうっすか…」
翔輝ファンの大輝は
わかりやすく、ガックリしてる。
「あいつ…
引退するんじゃねえ。」
煙草に火をつけて那智が言った。
「え、何でですか?!
まさか、女のために?」
大輝が焦って言う。
「もとから、アイツは…
こんなの向いてねえんだよ。」
那智がつぶやいた。
「おれ、そんなん嫌っすよ
那智さーんっっ」
大輝がうるさく騒ぐ。
「うるせえよ。
…あん時もそうだっただろ」



