クラブレッドの事務所のドアを開ける。




「この前のマリアマリアの分だろ。



もう、振り込まれてるはずだけどな。




ちょっと待て。今から確認する」




大輝と喋りながら那智が入ってくる。




「お前、マナトに言っとけよ。




次やったら、最後だって




責任はマナトに取らせるからな」





ソファで横になってる翔輝を




2人とも無視して、会話を続ける。




チェックして



「オケ。




振分けしといたから、



後で確認しとけよ」




ノーパソから顔を上げた




那智が大輝に言った。




「それはそうと、那智さん。



レミと何かあったでしょ?」



大輝が空いてるソファに座って言った。




「は?



何も無えよ」



「無いわけないでしょ。



レミのやつ、



那智さんの気を引こうと必死じゃん」




カチ。那智が無言でタバコに火をつける。




「外見めっちゃ変えて



あれって、全部那智さんの好みに



変えてるっしょ」




そう、あれからレミは変わった。



髪も黒くして、メイクも薄くしたまま



格好だって、大人っぽく




ギャルじゃなくて、




那智が連れてる女のひとに似た服装に…






大輝がちゃんと閉め忘れた扉の向こう。




レミは聞き耳たててた。



大輝がおれが聞いてやるって




レミに、お前もドアちょっと開けといてやるから



聞いとけって。




言ってくれたのは、ついさつきの話。




「…んー。うるさい」



翔輝が寝返り打って言う。




「うるさいじゃねえよ。




翔輝、お前こんなとこで寝んなよ。




上行けよ。」




那智が翔輝に、言って



「お前もつまんねーこと言ってないで



用済んだら出てけよ。」




大輝に向かっても言った。



「やだ。上うるせえもん。



ここで寝る」



翔輝が答え。




大輝が食い下がる。



「那智さん。アイツぜったいマジっすよ。



しょっちゅう那智さんのこと見てるし。




あんな、格好して



めっちゃ健気じゃないっすか」




「知らねえよ。




大体、あれは翔輝のだろ。



翔輝のお手付きにわざわざ手なんか




出さねえよ。」





寝ぼけて翔輝が言う。




「レミ?




おれ、レミに手出してないよ。



え?なにお手付きってドレミ?」





「寝ぼけんな」那智がひとこと。



「他人に興味ない翔輝さんは



黙っててください」




大輝には言われ




むっ。





むくれる翔輝。




「正直、アイツがマジで




那智さんに惚れてたら…



どうなんですか?




那智さん。





那智さんはレミ



ありなんですか。なしなんですか?」




聞いてるレミは、




倒れそう。



大輝さーん。




すごい斬り込むじゃん。直球じゃん。




レミ心臓が壊れそうだよぉ。





黙って大輝を見てた那智が



バカにしたように笑って言った。



「何が〝マジ〝なんだよ。



簡単だな」



ズキん。



レミの胸が痛んだ。



那智が翔輝を親指で指して



「あのなぁ、アイツはこの色ボケに



ガチ切れされて、




ペシャンコなところに



ちょうど、おれがいたかなんかで。




ていよく、すり換えてるだけなんだよ。



気持ちが弱ってるから



目の前にあったもんに



のめり込んで、気まぎらわしてるだけ




だろ?



アホらしい。」




那智が



那智らしく、ピシャリと切り捨てた。




中ではまだ会話が続いているけど、



レミは




レミは




胸が痛くて





〝胸が張り裂けそう〝って





こういうことなんだな。って思ってた。



そうだよ。ついこの前まで




レミは翔輝さんが大好きで



翔輝さんのことばっかり考えて




ずっと、翔輝さんを追いかけてて




なのに、今は那智さんのことばっかり





レミの胸を占めてる。





だって、しょうがないじゃん。




那智さんが、レミのことなんて





バカにして、嫌いだって思ってたのに





優しく笑ったりするから





かわいいなんて言ったりするから。





レミ、バカだから




何でかなんて、わからないけど




那智さんが横にいてくれたらいいな。



って、





那智さんにもっと




レミのこと




かわいいって思って欲しいって




思っちゃったんだもん。




これ





恋じゃないの?




すぐ、好きになっちゃったら



恋じゃないの…?




「レミって、レミ?



那智とレミ?」



うとい翔輝が今ごろ言ってる。




「色ボケは黙っててください」




大輝が言う。



翔輝が無言で立ち上がる。




「あ、いた、痛たたたっ



翔輝さん。すいませんっっ。



調子に乗りました。



ギブっ、ギブっ」




翔輝に足4の字固めをくらい




叫ぶ大輝。




「うるせぇ。仕事にならねぇ。



おれが出てくわ」




呆れたように、那智が立ち上がる。



「那智さん。待ってっ




待って。置いてかないでー



翔輝さん、ギブギブっ




ヘルプー」



タップしながら叫ぶ大輝を無視し




出口へ向かう那智。




やばい。那智さんが出てきちゃう





勝手に盛り上がって



イメチェンして



眼中にないってハッキリ言われて



しかもそれを聞いてたなんて




ぜったいっ




知られたくないっ




恥ずかしくて、悔しくって、辛くって




死んじゃう。



なのに、レミの足は動かない。





ガチャ。扉が開く音。




真っ赤な顔で見上げるレミと




那智さんの目があう。