クラブレッドのVIPのドアの前で
レミは
また手鏡で顔を見る。
どうしよう。
やっぱり、メイク…おかしいかな。
でも、
どうしよ。
レミは、行ったり来たり
ずっとウロウロしてる。
今日のレミは
ファンデにリップ。
後は少しだけマスカラをつけたくらい…
(いや、眉は描いてるよ。麻呂になるから)
いつもとは全然違う。
薄化粧。
だって、那智さんが
あんな風に言うから…
「おーレミ?何やってんの?
って、レミ?
えらいフインキ違うじゃん」
ちょうど、やってきた大輝が
声をかけた。
レミの心臓はドキドキして
何か、ひきつった顔で、大輝さんに
挨拶しちゃった。
「何やってんの、入らねえの?」
レミが何分も開けられなかった扉を
簡単に大輝が開けた。
ドキん。ドキん。
あれ?
那智さんいない…
「レミー?どうしたの今日。
化粧は」
「ほんとだ。寝坊した?
って、もう夜だけど。
化粧貸そうか」
なんて、遠慮のない友だちの言葉。
いなくて、ガッカリ半分
ホッとしたの半分かも。
レミがそう思ったとき
後ろでドアが開いて
「お前、そこじゃま」
入ってきた那智さんと
振り返ったレミの目が
至近距離で合う。
レミの心臓の音は
急に大きくなって
…
那智さんは…
フイ。って
そのままレミを素通りした。
見えなかったみたいに。
…あは。
そうだよね。
那智さんが軽く言っただけの言葉。
レミにとっては
何か、響いて
大きかった言葉。
那智さんにとっては
何でもない。
覚えてもないのかも。
だって、那智さん
レミ嫌いだもんね。
「ちょ、ちょっとレミ。大丈夫だった?」
美弥が声をかけてくる。
「何が?」
レミが言うと、美弥がレミを部屋の端っこまで
引っ張って小声で言った。
「那智さんだよ!
あんた、覚えてないの?
酔っ払って、那智さんにお酒ぶっかけて
大泣きして。」
え?マジで?
「そ、そんなことしたの?!わたし?!」
聞くのこわいけど…
「そ、それで?」
「大泣きして、そのままカウンターで
寝ちゃって…
那智さんが、なんと
お姫さま抱っこで!
事務所に運んでくれたんだよ!」
マージー?!
「ただ、
『コイツ、マジでころす』って
言ってたから…
大丈夫だった?」
美弥が言った。



