さっぱりして、事務所に戻ると
デスクに腰掛けた那智さんが
背中を向けてタバコ吸ってた。
スーツのジャケットを脱いで
シャツ姿の那智さんの両腕には
くっきりと
那智さんの腕を登るような龍のタトウ。
レミに気づくと
「メシ行くぞ」
那智さんは、ジャケットを持って
言った。
言われるまま那智さんについていくと
いろんな国のお店が並ぶ界隈を進んで
那智さんの足取りは迷いもせず
中国語の看板のお店に入っていく。
朝から中華?
席についた那智さんは
お店のひとと中国語?
喋ってる。
レミはびっくりして
「那智さん、中国語喋れるんですか?
すごいっ」
そう言うと
「喋れるって言っても
簡単な日常会話くらいだぞ。
環境じゃね?
昔から、仲間内にいたし
何となく喋れてるだけ。
こんくらい、翔輝も喋れるよ。」
そんなこと喋ってたら
食べ物が運ばれてきた。
レミには…スープ?
卵とか
みどりの野菜、ご飯も
よくわからない赤い実とか入ってる。
何これ。レミ食べれる気がしない。
那智が言う
「食え」
もー。オレ様すぎ。那智さん。
二日酔いで食欲ないのに。
レミは、お皿の横についてた
木のスプーンでスープを
強制的に口に運んだ。
「…おいし!」
さっぱりしてて、優しい味で
中華っぽい、ゴマ?みたいないい匂いがして
「だろ?
二日酔いにはそれが
1番だからな」
そう言った那智さんの前には
コーヒーだけ。
「那智さん、朝ごはんは?」
「おれは朝はコーヒーだけ」
え、レミのために?
わざわざ、
ここに連れてきてくれたの?
…意外。
那智さんがレミのためになんて
レミの中で
那智さんのイメージって
こわくて、容赦なくて
ブラアイとか翔輝さんのことは大事で…
レミのことは嫌いで
後は…やっぱりこわい。
そんな感じ。
ちょっと熱いそのおかゆ?スープを
ハフハフ
食べてるレミ。
気づくと、那智さんが
何か笑って、こっち見てる。
意地悪そうな笑いなのに、
やけに目元は
優しそうに細められていて…
なに?
…
あっ。
そうじゃん。わたし!
スッピンじゃん。
バッ。
レミは慌てて、左手で顔を隠すように
前髪を覆った。
右手はスプーンを、持ったまま
不自然な体勢のレミに
「は?
何やってんだ」
那智が言う。
「べ、別に」
「…なわけねぇだろ。
さっさと食えよ」
那智がレミの左手をベリって剥がすみたい
引っ張った。
「?」
何か探るみたいに近くから
レミの顔を見つめる那智。
凛々しい那智さんの目が
レミの麻呂みたいな
眉毛見てるーっっ。
レミは、レミの顔はどんどん真っ赤になる
勘弁して下さい。
「だって、那智さんが笑うから」
真っ赤なレミは白状する。
「は?」
「レミのスッピン笑うから」
レミが下を向いて言った。
レミお化粧してないと
眉が無くて、ほんと
平安時代のひとみたいになるんだもんっ。
目はくりっとしてるんだけど、
スッピンだとすっごく、幼くなって
顔全体が薄くなるしっ。
「はあ?」
呆れたような那智の『はぁ?』
無い眉毛を下げて、上目づかいで
那智を見上げるレミ。
あ、また、那智さん笑ってるーっっ。
「別に、
スッピンの方がいいじゃん。」
那智が笑って言った。
そんな訳ないじゃん。
笑ってるクセに。
「うそばっかり、そんな訳ない」
カチ。
那智がタバコに火をつける。
「女って、やたら化粧濃くしたがるよな。
絶対スッピンの方がいいのに」
それは、元がいいひとでしょ?
大体
那智さんが連れてる女のひとは
年上で、どこかの女社長とかが多くて
全身びっしり決まってて
キレイで、もちろんお化粧だって
バッチリなひとばっかりじゃん。
翔輝さんの彼女だって…
クソババアなんて悔しくて
言ったけど、
レミなんかより
ずっと、キレイなひとだつた。
「どうせ、レミは笑われるような顔ですよ。
那智さんや翔輝さんの彼女とは比べもの
にもなりませんよー」
レミはひねくれて言いながら
もういいや。那智さんに笑われたって
かまうもんか。って
スプーンを動かし出した。
「翔輝のおんなねー。
おれはお前の方がいいと思うけどね」
何でもないことみたいに那智が
軽く言った。
えっ?!
レミはびっくりして
那智を見上げる。
「結婚するならお前みたいなのが
(バカだから)扱いやすくて
おれはいいけど」
「必死にこどもとか、
家庭守ってくれそうじゃん?」
固まってるレミ無視して、
タバコを手に持ったまま
テーブルに肘をついた那智が言った。
「お前に似た子供なら
タヌキみたいで
可愛くなりそうだし」
レミだって
ところどころで、ディスられてるって
ちゃんと、わかってる。
けど
那智さんが、本当にそう思ってるみたいに
優しい顔で笑って
言うから。
レミは那智さんから
目が離せなかった。



