わっ。
ちょっと
だから、わたしはモノじゃないっての
簡単に運ぶな。
そう思いながらも無駄な抵抗はしない
優香。
子供みたいに抱えられて
優香の両手は必然的に翔輝の肩に置かれて
時折り、頬に触れる翔輝の髪がくすぐったい。
変なの。
抱きしめてしまいたくなる手を
我慢する自分がいる。
人ごみが、少し途切れた路地。
その路地にスキマで
翔輝が抱えてた優香を下ろした。
雑踏の中にいたのに
あっという間に2人だけの空間になる。
翔輝の後ろから当たる、街灯で
影になって翔輝の表情が全然見えない。
もしかして、怒ってる?
調子に乗っちゃたかな。
少し心配になる。
「翔輝?」
問いかける優香に
「お前は?」
翔輝が言った。
え?
「言うことあるんじゃね?」
ちょっとからかうみたいな言い方。
目が慣れてきて
優香の目にも
翔輝の表情がぼんやりと見え出した。
あ。
ああ。
何かわたし、自分で墓穴掘った?
ちょっと、笑ってるような
翔輝の顔が見える。
「…」
うううー。
もう。
「す、好きになってくれて、
ありがとう」
優香が翔輝に言った。
『ごめんね』は、
言わせてもらえなかった。
翔輝が
キスしたから。



