クラブレッドの入り口に立っていた
翔輝がこっちに歩いてくる。
無表情だけど、あきらかに怒気を含んでる
顔面蒼白になってる女の子たちを尻目に
優香は呑気に思ってた。
もしかして、さっきのあれ
翔輝が蹴った?
あ、あれゴミ箱?
やっぱり、結構酔ってるみたい。
優香は、翔輝のキック力すごくない?
なんて、場違いなこと考えてた。
翔輝が側まできた。
さっきまで凄んでた女の子に
翔輝が言う。
「お前…
殺すぞ」
凄い…冷たい声。
こわ。
「す、すいませ
レミはただ。
翔輝さんのために
翔輝さんが、迷惑してるかもって」
チューブトップちゃんは
さっきまでのあの、勢いが嘘のよう、
泣いちゃってる。
ちょっと…かわいそう。
そんな女の子に
「2度とツラ見せんな」
容赦無い翔輝の言葉。
「ご。ごめんなさいっ。
翔輝さん。
レミ、ご、ごめんなさ」
必死に訴えるその子に
キレちゃってる翔輝は
冷たい。
「うせろ」
「翔輝さん。
ほんとに、ごめんなさいっ。
2度としませんから
レミ、ほんとに翔輝さんが好きで
ほんとに、それだけなんです。
もうほんとに、2度としないから
許してくださいっ」
泣きながらも、翔輝に懇願する女の子。
そんなに、
そんなにしてまで
翔輝に会いたいの?
翔輝に、会えなくなるのが…?
翔輝が言った。
「知らねえよ。
失せろ」
…
優香の手が動いた。
思わず
守るように優香の前に立っていた
翔輝の肩を
バシ。
翔輝が驚いて振り返る。
え?
殴られるの、おれ?
みたいな表情。
「女の子になんてこと言うの!
殺すとか。
ちょっと言い過ぎだし
こわすぎ!
それに、こんな
思われて…
翔輝が言わないといけないのは、
まず
『好きになってくれて、ありがとう
ごめんね』
それでしょ!
こんなに思われて…
少しはありがとう
って思いなさいよ!」
周りが、ピキン。って
静かになった。
クラブレッドの入り口では
ゆうじが真っ青になってる。
翔輝さんになんてことを…
周りにいる全員がそう思ったとき
「わかった」
翔輝が言った。
翔輝が女の子たちのほうを向いて
「好きになってくれて、ありがとう。
ごめんね」
えええーっ
ほんとに言うんかい。みたいな
声にならない周囲のみんなの声。
ばっ、って
優香が、今度はチューブトップちゃんに
向き直る。
「あんたたちは、口悪すぎー!
大体。
わたしまだ24ですから
四捨五入で、ギリハタチですから!
そんな微妙なお年頃のひとに
何回も、ババアとか言っちゃだめ!」
「ごめんなさいは?」
優香が言うと
「ご、ごめんなさい」
チューブトップちゃんが迫力に押され言って
周りの子たちもバラバラと謝る。
「はい。これでもうおしまい」
優香が言った。
「いいよね?」
うなずくしかない翔輝。
翔輝にそこまでさせる優香に
羨望の眼差しが集まったころ。
翔輝がひょいって
優香を抱えて歩き出した。



