優香が必死に抵抗しながら、
心の中で
そう思った
そのとき。
ガッシャーン。
ベランダの窓ガラスが割れた。
ナイキのシューズが
窓を割って入ってきた。
え。
大きな破壊音に
予期せぬ展開に
停止したように動きが止まって
ナイキのシューズから
唖然として見上げる先に。
翔輝?
ほんとに、翔輝が?
翔輝が立っている。
グレイのパーカーの上に
薄いブルーのジージャンを羽織って、
ブラックのデニムはいた姿で、
当たり前のように立っている。
呆然とする2人を前に
ひょい。
翔輝がまだ動かずにいる岸田の襟首を
つかんで、立たせる。
岸田がやっと声が出せて
「な、なんだきみは、どこから」
言う途中で
バンっ。
壁に、放り投げられたみたいに、
ぶつけられた。
「いたっ。何するんだ」
そんな岸田を無視して、
翔輝が優香の腕を支えて立たせる。
どうして。
「大丈夫?」
場にそぐわない落ち着いた翔輝の声。
「…な、何で」
破れたシャツを隠しながら
優香が言って。
まだ、驚いた表情のまま翔輝を見上げる。
…翔輝。
ほんとに
助けに来てくれるなんて。
翔輝が
助けに来てくれるなんて…
「あ、あの」
まだ震えている優香の手を
翔輝の手が優しく
包む。
ホッとして
勝手にのどの奥が熱くなって
…涙が出そう。
「…ずっと、見てたの?」
まだ現実が把握できなくて
口を開けたまま優香が言う。
「だからカーテン開けたんだろ」
まるで、優香の気持ちがわかっているみたいに
当然ような口調で
翔輝が少し
意地悪そうな顔で微笑んだ。



