ギュ。



優香は無意識に



自分の手を握りしめていた。



ふと、翔輝がこっちを向いて



何か言いかけたと同時に



優香は翔輝から



目をそらして



できるだけ、冷たい声で



言った。



「もう、来ないで。



来られても、もう



会わないから」



自分の声じゃないみたいな



私の声、聞きながら



翔輝が私を見ている。




優香は翔輝を真っ直ぐ見る。




「もう、



会いに来ないで」



無言のまま



私を見つめている翔輝。



きょとん。って



私の言葉の意味を



考えているみたいに。



表情は動かなくて



そして…



こんな時なのに、



翔輝は



少し笑って言った。



「何だ。



振りに来たのか」



そう言った。




少し困ったような表情で



私を見ている翔輝。



なぜか、



わたしの心臓がズキってした。



ズキ、なんて痛む理由も、



資格もないのに



何か言わなくちゃって思って。



けど、何かフォローするような言葉が



出そうになるから



最初からそんなつもりで来たんじゃない。



無視できなかった



なんて、言いたい自分がいるなんて



「っつ。


…迷惑なの」



言葉を投げつける。



ひどいわたしは、容赦ない。



「…ん。



わかった」



翔輝が唇の端を少しあげて



言った。



なんでもないみたいに、立ち上がって



「じゃあね。



早くうち入んな」



軽く言って、帰っていく翔輝。








ほらね?




拍子抜けするくらい、



あっさりだったじゃん。



若い子の、好きなんて



そんなもんなんだよ。



軽い気持ちで。



たいしたことないんだよ。



飽きたら終わるくらいの



…そう思いながらも、



優香はわかってしまった。



翔輝のあの顔は、



唇の端だけ上げて笑う



あの表情は



悲しいときにするんだね。



最後になってそんなこと



知るなんて。