数回しか会ってない



やばい匂いしかしない男。



関わっちゃだめなのに



なんでこうなってるわけ?



気づいたら



迷惑なのに、



ふらりと現れる翔輝に



振り回されているんじゃない?



夜メイク落とすときに、



今日来ないよね?



一瞬、思ってしまう。



自分に気づく。



すっぴんだってもう見られてるじゃん。



じゃなくてー!!



すっぴん見られたって



どうだていいでしょ。



関係ないひとなんだから!



大体あの人、どういうつもりなの?




最初は仕返し?



に来たのかって思ったのに



全く理解できない展開。



ギャングの王様が、私に何の用なの?





会社帰り。



家の近くの路肩に



黒い大きな四駆が停まっている。



大きなエンブレムを真ん前に



どかっとつけた、メルセデスベンツ。



沿道のガードレールに



軽く腰かけているのは



翔輝だ。



当たり前のように



「おかえり」



翔輝が言って



「…ただいま」



優香が答える。



だから、どんな関係よ。



「ん」



翔輝が缶コーヒーを差し出す。



後ろのベンツは



エンジンがかかったまま。



ゆうじくんが乗ってんのかしら。



この前から気づいていたけど。



この人すごく忙しいみたいだよね。



なんの仕事?



用事?か、わからないけど。



ほんと、合間をぬって来てるみたいだよね。




「また、顔見に来たの?」




翔輝の横に並んでガードレールに腰かける。




気づかなかった。




ビルの隙間からキレイな三日月。




薄明るい夜空。




「うん」




「なんで?」




そもそもの疑問。




このひとなんで




わたしに会いにくるの。




怒ってる、




とかじゃなさそうだし




何か、これって




いや、まさかね。









表情で問いかける翔輝。




「何で、顔見に来るの?」




優香がもう一度、丁寧に聞く。




少しの間が空いた後




「…言ってなかったっけ」




翔輝がまっすぐ私を見つめる。




「好きです」




翔輝が言った。



優香の心臓はありえない



音たててる。



…です。とか




使うんだね。




シンプルな言葉。




それだけで伝わるだろって




シンプルな言葉。




よくわからないよ。




まさかって思っていたことが




本気?




「どうして?」




ん?って




表情の翔輝。




「なんで私なの。 




急に。




なんで?」





ずっと聞きたかった





出会ってからの疑問をぶつける私に 




翔輝は




月夜を見上げて 




「…んー。




…好きな理由とか。




考えたことねぇ。



理由がいんの?」




当たり前のように言って




「ただ、会ったときから



お前しか目に入らないだけ」




照れもせず、




私の目をのぞき込む翔輝は




本当に私しか見えていないみたいに




真っすぐで。




現実ばかりに囚われている




私よりずっと



純粋に見えた。



心臓がやばい。




バカみたいにドキドキしてる。




なんて、



不覚にもときめいてしまったけれど。



現実は重い。



だって…



世界が…



壁が見えそうなほど違うよ。



しっかりしろ!



自分!