何これ。
何これ。
誘拐?
濃いめのフルスモークの窓ガラスに囲まれて、
薄暗い車内。
喘ぐように呼吸して、
口を開いたまま
右側を見て、左側を見る。
あ、この子。
見覚えあるかも…
あっ。
あの駅のナンパの
そう思ったとき、
その左側の子と目が合う。
「ちーっす。」
その言葉に遅れないようにとばかりに、
車内の残りの二人が
「ちーっつす」
挨拶してくる。
は?
ちーっす?
は、挨拶?
「えっと、
な、何ですか?」
ドキドキしたまま、やっと声を出す。
「翔輝さんがお待ちです」
当たり前のように、
運転手の男の子に言い切られて。
いやいやいや。
お待ちですって。
だれ?しょうき?
…。
…。
もしかして、あの子?
…しかない気がする、
いや、よくわからないけど。
他でよくわからない、こんな
知り合いいないし!
誘拐ですから、これ。
何なの?!
そして、
すごい手慣れてませんか?
あなたたち。
何もできないまま
あっという間もなく、乗せられましたよ。
わたし。
それに何この車。
すごい高級車ですよね。
全部本革レザーの車内。
外車ですよね。
めちゃめちゃ大きいし。
どう見ても10代に見えるあなたたち。
なんのひと?
何やってる人?
特に、翔輝さんは何やってるひと?
後、私あなたたちに『ちーっす』って
挨拶されるの?
全然関係ないんですけど。
私なんのポジションにいるんですか?
いやだもう。
すごい怖かったし。
もう。
ほんと、何なの?
この前から
…もう!!
はっきり言ってやる。
あのひとに、
翔輝さんとやらに
はっきり言ってやる。
こういうの困るって。
もう関わりたくないって
はっきり言ってやる。
そう優香は意気込んで、
車内では、何も言えないまま車が停まった。



