優香が、部屋のドアを開ける。



優香のアパート。



「コーヒーいれるね」



黙りこくっている翔輝。



優香はタオルを持ってくる。



「汗かいちゃったね」



ソファに座っている翔輝に手渡そうとした。





その優香の腕を翔輝が掴む。




「?


翔輝?」




少し笑ってそう言う優香を



翔輝が抱える。



え?


ちょ、



翔輝?




やだ。



ベッドにドサっ。



横たえられて、優香の両手首は



頭上の翔輝の片手の中。



やだ。



見下ろす翔輝の目は何考えてるのかわからない。



翔輝の空いてる方の手が降りてくる。



やだ。



こんな気持ちで…



できないよっ。



「やっ」




心が追いつかないよ。



翔輝の手を振りほどこうとするけど



やっぱり翔輝の手はびくともしない。




「やだっ」



泣きそうになる優香。



「何で」



そう言う翔輝。



何でって…



…翔輝の降りてきた手が



優香の頬を



ムニュ。



軽くつまんだ。



え?





「ざけんなよ。」




翔輝が静かに言った。




…怒ってる?翔輝。



何で



なんで、




翔輝が怒るのー?





だって




だって




翔輝が、他の子とキスしてた。




キスしてた…




わたし、ほんとはすごいすごい




痛くて



悲しくて




泣きたくって




だけど、




たぶん、翔輝には何でもないことで




たぶん、よくあること?




何か、あのシーンを見るだけでわかるくらい




され慣れてた…




だから…



年上のくせに



こんなことで大騒ぎすんのかよ




って




めんどくせえって




思われたくなくて、




だから



どうしていいかわからなくて



精一杯、普通のフリしてたのに…



優香の目尻から流れる涙はもう



止まんなくて。





「ううええん」




変な泣き声が出てしまった。




「ばか。」




泣きながらそういう優香に



「うん。ごめん」




「嫌だった?」



そんなこと聞く翔輝に



「ばっかじゃないの。



嫌にきまって



いやに…」




翔輝の顔…



何嬉しそうにしてんのよ。




「ごめん。



お前が嫌なら、



もう、ぜったいしない」



そんなこと言う翔輝。



しないって…



されてたじゃん。



「ふいにされるかもじゃん。



近づいてきたらどうするの?」



涙声で言う優香に




「しばく」



いやいや、こわいから。




優香の腕を持って、翔輝が優香を



起こして。



涙をぬぐう。



「好きだよ。

 

おれ、お前がいれば


他の女なんて



一生いらない」



そんなこと言う翔輝。



「そんなの…



わかんないじゃん。」




だだっ子のような気分で



翔輝を困らせたくなる。




「わかるよ」



翔輝のくちびるが優香の首をなぞる。




引っ張り出されたシャツの下で



大きな手のひらが



優香の肌に触れる。



そんな



いっぱいしたら、



「…したら



飽きるかもじゃん」



まだ、言う優香に



「上等だよ。


一生抱いてやろうじゃん」



なんて言って



翔輝に押し倒された。



翔輝の腕の中に入れられて



近づく翔輝のくちびるが触れそう。



触れそうで触れないくちびる。



…?




翔輝?




「キス、していい?」



強気なこと言うくせに



ちょっと不安そうな顔でそんなこと聞くから




優香は翔輝を引っ張って




キスをした。