そう思った時。



ふわって



思いのほか 優しく



抱きしめられた。



「泣くなら、



ここで泣いて」



頭の上から男の子のハスキーな声。



は?




何言ってるの?



何で、



なに。



あなた



誰なの。



なんなのよ。




何言ってるの!?



「は、離して」



焦って、たくましい腕を押し返す。




力入れているはずなのに、



私を包む腕はびくともしない。



え。岩?



手応えが…



岩?



「あ、あの。ちょっと」



何でよ。



何で、そんな優しく



抱きしめているの。



力いっぱい、振りほどこうとするのに




どんなに動こうとしてもムダで。



えーっと。



どうしたら…。



抵抗するのに疲れて



暴れるのやめても。



男の子はじっと



私を優しく抱きしめたまま。



ていうかほんと、抱きしめているだけ。



何?


このまま、私を抱きしめているの?




何が目的なの。



荒い自分の呼吸に



この子の男っぽい、



ムスクの匂いが近すぎて



変な気分になる。



何でよ。 



知らない男の子だよ?



泣いていいよって。



急に現れて



まるで、



私のために ここに来たみたいに




私のために 存在するみたいに




慰めにきたみたいに…



ほんとなら、誰もいないところで



みじめに



自己嫌悪に浸って



泣いているはずなのに



何で、



こんなぬくもりの中で



…泣いていいの?





私の涙で



グレイのパーカーが



濃く染まっても知らないから。



どうかしてる。



預けた頬から涙がつたう。



力抜いて



知らない子の腕の中で




こんなにも



安心して泣きじゃくるなんて。



テレビも音楽も



携帯も見えない空間で



私だけを抱きしめているひと。



ポンポン。



優しく頭を撫でる手。



知らない子のゴツっとした



大きな手の平が私の髪に優しく



触れる。



温かい体温と



頬から聞こえるような



心音。





何で



何よ



こんな状況ありえない。



でも



きっと、私はこの香りをかぐたびに



この夜を思い出すのかもしれない。