熱海温泉 つくも神様のお宿で花嫁修業いたします

 

「一体、どうしたというのだ?」


 戸惑いを浮かべた花に気がついた薙光が、心配そうに声をかけた。

 八雲よりも昨日会ったばかりの薙光のほうがよっぽど、花のことを気に掛けてくれているようにも思える。


(でも……でも、私は──)

「申し訳ありません……」


 ゆっくりと震える息を吐いた花は、そう言うと真っすぐに顔を上げて薙光の整った顔立ちを見つめた。


「お気持ち、とても嬉しいですし感謝いたします。でも……私には、コツコツと善を積んでいくほうが性に合っているので、今回はお気持ちだけ頂戴させてください」


 言いながら、花は苦笑いを浮かべた。

 今、自分はすごくもったいないことをしているに違いない。

 それでも確かに薙光に断りを入れた花は、不思議と後悔はしていなかった。


「本当に申し訳ありません。せっかくの薙光様のお気持ちを──」

「──気に入った」

「え……?」


 けれど、不意にそう言った薙光が、更に一歩前に出た。

 花は自分よりも頭ひとつほど高い薙光の顔を見上げて、何が起きたのかわからないといった様子で思わず声を詰まらせた。