熱海温泉 つくも神様のお宿で花嫁修業いたします

 

「な、薙光殿。それは、一体どれくらいの善なのでしょうか……?」


 思わず口を挟んだのは黒桜だ。

 薙光は黒桜の質問に不思議そうに瞬きをしたあと、改めて質問に答えてみせた。


「そうだな……。普通であれば約一年、善を積むくらいの量だ」

「い、一年分⁉」


 声を揃えたのは、ぽん太に黒桜、ちょう助、そして花の四人だった。

 四人の反応に、また薙光が不思議そうに眉根を寄せて首を傾げる。

 けれど、四人が驚くのも無理はないだろう。

 一年分の善といえば、花がつくもを出ていくために必要な善の量で間違いない。


(ということはつまり、今、薙光さんから一年分の善を貰えたら、私は晴れて地獄行きを免れて、すぐにでも現世に帰れるってことだよね……)


 頭の中で状況を整理した花は、思わずゴクリと喉を鳴らした。


「花……」


 そのときだ。不意に不安げに花の名前を呟いたちょう助の声に、花はハッとして我にかえった。

 そうして改めて、花は自分の周りに立つ、つくもの面々へと目を向ける。

 ぽん太に黒桜、ちょう助。そして──半歩前に立ちながらも真っすぐに前を向き、花の方を向こうともしない八雲を見上げた。