熱海温泉 つくも神様のお宿で花嫁修業いたします

 

「今日はそなたらが用意した宴、ゆるりと楽しませてもらうことにする」


 そう言って仲間たちのそばへと向かった薙光はその後、言葉の通りにデザートバイキングを堪能してくれたようだった。


「──よくやったな」


 薙光や、名刀である付喪神たちの笑顔を眺めていた花の隣に立った八雲が、優しい声を響かせる。

 その八雲の声に小さく頷いた花は前を向いたまま、囁くように返事をした。


「付喪神も人も……同じなんですね」


 ぽつりと溢した花の声は、八雲が確かに受け止める。


「お互いが、お互いを尊重し合いながら生きている。ものが私たちの暮らしを豊かにしてくれているように、私たちもまた、その"もの"を大切にしなければいけないんだって──つくもに来て、改めて気づくことができました」


 花が口にした想いに、八雲は「そうか」とただ一言、ぶっきらぼうな返事をくれただけだった。

 けれど今の花には、それだけで十分だった。

 それ以上の返事を貰ったら贅沢だと思えるほどに……花の心は今、幸せで満ちていた。



 ♨ ♨ ♨



「この度は、本当に世話になったな」


 翌日も、暖かい春の日差しが気持ちの良い朝だった。

 御一行のお見送りのために勢揃いしたつくも一同を前に、薙光は丁寧に頭を下げると美しい顔で微笑んだ。

 うっかりすると、あまりの美男さにクラクラして貧血でも起こしそうになる。


(薙光さんがもしも本当に乙女ゲームのヒーローだったら、私は推して課金する自信がある……)