「行くぞ」
「は、はい……っ!」
八雲に声をかけられた花は歩を進めると、弁天岩の前で足を止めた。
「これが、弁天岩……さん?」
「ああ。弁天岩とは古来、神々が宿っていたと伝えられる磐座のことだ」
磐座……と言われても、神社仏閣ごとに疎い花にはサッパリだったが、とにかくすごい岩ということで間違いはないだろう。
どっしりと構えられた岩は、まるで背中の弁財天の社を守っているようにも見えた。
更によくよく見れば弁天岩のてっぺんには、とぐろを巻いた蛇の形をした岩が乗っており、こちらをジッと睨んでいるようだった。
「でも……弁天岩さんにご挨拶をするって、一体どうやってご挨拶すればいいんですか?」
隣に立つ八雲へ目を向けた花が、疑問を口にする。
すると八雲は戸惑う花を前に、「お前はそこにいろ」とだけ告げると、池に置かれた飛び石へと片足を乗せた。
「え、や、八雲さん!?」
そうして八雲は軽やかに飛び石を渡ると、弁天岩の前に立った。
(そこにいろって、このあと一体どうするつもりで──)
と、花が心の中でひとりごちた、そのときだ。
八雲が不意に右手のひらで、弁天岩の一部に触れた。
(え──っ⁉)
その瞬間、あたりの空気が一変する。
花は真っ白な靄に包まれたような錯覚に陥り、地に足をついているのに身体ごと宙に浮いているような不思議な感覚に襲われた。



