「……これが、大楠神社の本殿だ」
結果、ふたりは本殿につくまで一言も言葉を交わさなかった。
手水舎を過ぎるとすぐ右手にあったのは、【御神水】。
そして階段を上ると正面に現れたのが大楠神社の【本殿】だ。
「これが、大楠神社の本殿……」
落ちていた気分を上げるように、綺麗な朱塗りの建物を見上げた花は感嘆した。
自然に包まれた広い境内に、目が覚めるような朱色が良く映えている。
厳かな雰囲気に包まれたその場所には、精悍な顔つきをした狛犬が二匹、向かい合うように座していた。
思いっきり息を吸い込むと、小さな悩みなどどこかへ吹き飛んでしまうようなパワーを感じる。
八雲を追って階段を上った花は、神々しい佇まいに感動しながら拝をして、柏手を打った。
(とりあえず、八雲さんの嫁候補ですって挨拶したほうがいいのかな……)
と、花は心の中でひとりごちたが、よくよく考えたら神様には心の声まで聞こえているのでは……と気がつき、肝を冷やした。
たとえ心の中でも迂闊なことは唱えられない。
そんなことを考えているうちに何をお願いすればよいのかわからなくなり、花は目を閉じたまま「うーん」と小さく唸ってしまった。



