「よし! 下ろすぞ! せーの!!」

大きな荷物がうちの店の前にいくつも運ばれて来て、男の人の掛け声と共に下される。

「店長、あれ、何ですか?」

私は、勤め先のコーヒースタンドの店長に尋ねた。

「ピアノだよ。
 明日からここに、1年間グランドピアノが
 置かれるんだ」

私が勤めているのは、県内最大のショッピングモール内にあるコーヒースタンド。

店内にはカウンター席が4席あるのみ。

そのまま持ち帰るお客様ももちろんいるけど、多くのお客様が、目の前のローズコートと呼ばれる広場にあるベンチに座って飲んで行く。

このローズコートには、小さなステージがあり、週末ごとにいろいろな催し物が行われる。

マジックショーやアニメのキャラクターショー、地下アイドルのライブや生バンドの演奏など。

ショッピングモールの運営会社が、客寄せに手配したものもあれば、演者が自ら運営会社に交渉してステージに立つ場合もある。

ここのステージは、予約さえ取れれば、利用料は基本的に無料なのだ。

ただ、ここのステージに立てる実力かどうかの審査はあるようだけれど。



店長の説明によると、市営のコンサートホールが老朽化したため建て替えることになり、その間の1年間、有料でこのピアノを借りたんだそうだ。

今、話題のストリートピアノってやつらしい。



いくつもの部品の状態で運ばれて来たグランドピアノ。

キルティングの梱包が順に解かれていくのを、ちょこんと直立した状態のペダルが、眺めるように立っている。


ふふっ
なんだか可愛らしい。


私は、そんなことを思いながら、いつもより騒がしい店内でコーヒーを入れている。



ストリートピアノ……

聞いたことはあるけど、こんな所で、本当に弾く人なんているのかな。