「おーい早瀬?どうした、怖い顔して」

頭を指でコンコンっとされてふと我に帰る。

「ほら、着いたぞ」

「え…?」

羽水社長の言葉どおり、この車はもう私の家の前まで辿り着いていた。

羽水社長がクスクスと笑いながらサイドブレーキを引き、ハザードランプをつける。


──降りなきゃ。


そう思ってシートベルトを外した。
そして、シートから腰を浮かせるより先に、言葉が喉を突いて出た。




「私じゃ、芝波社長の代わりにはなりませんか」




好き。

羽水社長の事が好き。



「私、羽水社長の事が誰より大切なんです」



…他の人の事を想い続ける芝波社長よりきっと、私の方が羽水社長の事を幸せに出来る。

私だったら羽水社長にあんな顔させない。