芋虫のように這いつくばり、身体をくねらせどうにか上体を起こした時だ。

 聖堂の扉が錆びついた音と共に開き、蝋燭の炎が揺らめく。

 現れたのはランベルトだ。
 後ろには、オッドアイの瞳を眼帯で隠した青年を連れている。

「目覚めたか、魔女よ」

 ランベルトは嫌悪に染まった顔でメアリを見た。

「私は魔女ではありません」

 きっぱりと否定すると、ランベルトは蔑むように鼻で笑う。

「未来を視て、都合のいいように変えているのだろう。魔女ではないか!」

 ランベルトの言葉にメアリは口を噤んだ。

 いつだったかイアンが忠告していた。
 ランベルトにだけは、メアリの力について知られてはならないと。
 メアリの祖母が視たというメアリが暗殺される未来。
 犯人として一番濃厚なのが、ランベルトだからだ。

 予知の力について、ランベルトは誰から聞いたのか。

(私を月夜見の巫女と呼ぶ、後ろの青年かもしれない)

 メアリが答えないのを肯定ととったのか、ランベルトは「卑怯な魔女め!」と憎しみを込めて足蹴にした。

「っ……」

 再び床に転がされ、けれど必死に身体を起こそうとするメアリを、ランベルトは忌々しそうに見下ろす。

「お前は魔女だ……アクアルーナの女王であるなど認めぬぞ」

 拳を震わせて立つランベルトを、メアリは見上げる。

「気に食わぬ……兄と……メイナードと……同じ目で私を見るな! どこまで私の邪魔をするつもりだ! メイナード! バリスタン!」

 怒りの形相で叫ぶランベルトの意識は、メアリではなくメアリの面影に宿る亡霊に向かっていた。