そして帰り道。



「さあや」


「だから無理に声出さなくていいって。これに書いてって言ったじゃん」


「書くのは面倒」


「面倒くさがらないでよ」



半年前に買って使わなかったノートを黒羽くんの筆談用にしたのに使ってくれない。


まったく、ひどい人だ。


彼はひそひそ声で話し続ける。



「腹減ったし、どっかでメシ食わねえ?」


「でも寮で沼口さんがお昼用意してくれてるよ」


「桃とのデートに備えて練習したい。普通のものを食えねえと嫌われるだろ?」



出た出た、練習。


練習する必要あるかな?


ほんと、意味不明。



「カノジョなんだから桃さんに素の自分見せればいいじゃん」


「無理だ。マジで嫌われる。今までだって恥ずかしいからって言い訳して一緒に昼飯食ったことねえし」


「ふぅん」


「何だよ、ふぅんって。興味無さそうにすん...ゲホッゲホッ」



かすかす声で頑張ってもこうなっちゃうんだよ。


私はかすかす声で苦しそうにする黒羽くんの背中をさすった。


意味ないかもだけど。



「わりいな。やっぱ練習は今度でいい。第1回目は11月10日。2回目は12月23日な」






はいぃ?


なんでその日程?



「その日ってなんか意味あるの?」


「第1問。11月11日はなんの日でしょうか」



あぁ、もう、じれったい。


分かんないって。



「はい、時間切れ~。正解は...ポッキーの日」


「ポッキー?」


「うわ、出た。お嬢様あるある。お菓子の名前を知らない。マジでヤバイぞ、さあや。ポッキーは...ゲホッゲホッ、国民的お菓子様だ」


「お菓子様って...」



どうやら彼の話によるとポッキーというのは細長い棒状のお菓子で、その4分の3にチョコがコーティングされていて、それはそれは美味しいらしい。


それを使ったポッキーゲームというよく分からないゲームの練習をしたいとのこと。


で、12月23日はクリスマスプレゼントを買いに行くから着いてきてほしいとそういうことらしい。



「よろしく頼むぜ、さあや。これはさあやにしか頼めない」


「はいはい、分かりました」



はぁ、デートか。


私の場合デートは義務だったから参考にならないや。


だけど、好きな人とだったらなんでも楽しめる気がする。


練習なんか本当に不要だと思う。


なんて言ってしまったら不機嫌になるだろうからやめておいた。


それより私は3日後に迫る誕生日パーティーの計画を立てなくちゃ。