「思い込み? 事実ではないか」

「違います。なぜそう思うのですか? 社交界で流れている噂を聞いて判断しているのですか? でもその噂は事実ではありません」

「姉は国王の後添えに収まり、妹を王太子妃の妃に推す。明らかにベルヴァルト公爵家の利益になる縁談だ。客観的に見てもあなたの企みだろう」

「私に王族の結婚を決める権限などありません。それはランセル殿下もご存知のはず」

ランセルは、口元を歪める。

「ベルヴァルト公爵家では母親の生家の威を借り、思うがまま振舞っていたとか。父をたぶらかし王宮にまで入り込んだあなたに、出来ないことなどないと思うが」

え? 父をたぶらかしたって……。

「まさか、私が国王陛下に自ら近づき、王妃になったと思っているのですか?」

「そうだろう? でなければ父が今更後妻など迎えるはずがない」

「私が王妃になったのは王命です。国王陛下と会ったこともない私が、どうやってたぶらかすと言うのですか?」

信じられない思い込み。誰が好んで親より年上で面倒な息子がついている男と結婚したいと思うのか。

「謁見が叶わないとは、どういう意味だ?」

ランセルは不審そうに眉を顰める。あれ? なんだか本当に驚いているみたいだ。