虐げられた悪役王妃は、シナリオ通りを望まない

貴婦人のひとりが目を輝かせる。

事前情報によれば彼女は名門伯爵家の夫人で、他国の公爵家出身の為皆が一目置いている存在だ。

「ありがとうございます。気に入って頂けて良かった」

満足だと目を細めて言うと、今度は別の令嬢が発言した。

「バルテルの品はなかなか手に入り辛いと聞きますけど、王妃様はバルテル辺境伯様の姪御様でもいらっしゃいますものね」

「バルテルは独自の騎士団を持っているそうですね」

思いがけなく貴婦人たちがバルテルの話題で盛り上がり出す。

同じ国とは言え、遠く馴染みの薄いかの地に皆興味があるようだ。

退屈している貴婦人たちは珍しいことに食いつく。

上手く会話を誘導すれば、バルテルの話題を引き出し、何か情報を得られるかもしれない。

でもそれは慣れてからにして、目の前のお茶会に集中しよう。

今のところは順調に進んでいる。予定していた通り、私がバルテル辺境伯の姪であると印象付けられた。

ベルヴァルト公爵家で大切にされていなくても、強い後ろ盾があるのだと貴族に認識させようとフランツ夫人が言い出した作戦。

お茶会が終わり屋敷に帰った女性たちが自分の夫や父親にそう話し、更に話が広がればいい。
それから質問には感じ良く見えるよう優しく笑顔で答える。

気さくさを出す一方で王妃としての品格も意識しなくてはならないから、生粋の庶民の私には結構難しい。