虐げられた悪役王妃は、シナリオ通りを望まない

なるほど。国王陛下は貴族家の当主たちにも顔を見せていないのか。

ロウは謁見が叶ったと言っていたから、最低限の公務は行っているのかと思っていたけれど。

王宮内で特に混乱が起きていないのは、代行としてランセルが政務を執り行っているから?

「お姉様どうしたのですか? 黙ったままで」

「いえ、何でもないわ。国王陛下はお変わりありません」

一度も会っていない立場を棚に上げ、私は堂々と言い切った。

フランツ夫人から教わったのだけれど、とにかく自信無さげなのが一番良くないのだそうだ。

今この瞬間だって周りの視線は私たちに集まっているのだから、臆してはいられない。

ユリアーネは私の態度が意外だったらしく、訝し気な表情になる。

「……そうですか。ところでお姉様、王宮での生活はいかがですか? 王妃殿下になったと言うのにお姉様の気配を少しも感じないので心配していました」

「ええ。だから皆さんとお会いする機会を持ちたくて、お招きしたのよ」

私はユリアーネから視線を外し、興味津々といった様子でこちらの様子を窺っている貴婦人たちに声をかけた。

「今日の茶葉は、バルテル辺境伯領から取り寄せました。とても美味しいので皆さんにも味わって頂きたくて」

「まあ、そうだったんですか。素晴らしい香りなのでどんな茶葉を使っているのかと考えていたところだったんです」