夜会以降、会話をする機会は無かったけれど、ランセルの活躍を耳にするだけで、自分のことのように嬉しく、彼に対する好意が増して行く。

アリーセにとって彼は強い憧憬を向ける存在になっていた――――。

◇◇◇

その初恋の相手に冷酷に断罪されたのだもの。

本当に気の毒としか言いようがない。

ショックは計り知れなかっただろうな。

そんな瀕死のアリーセを追放して刺客まで差し向ける鬼の所業。本当に酷いと思う。

きっと出会った時の優しさの方が偽りだったんだろう。アリーセは全然気づいていなかったけれど。

さて、今まさにランセルとの出会いが訪れようとしている。

私がテラスから中庭に降りれば、物語の通りに彼がやって来るんだろう。

でも行かない。私、本で読んでるときからランセルって好きじゃなかったんだよね。

一見理想的な王子なんだけど、実は腹黒で。アリーセに浪費の罪を被せ悪女に仕立て上げたのって実は彼なんじゃないかって思ってるくらい。

あの時、続きを読んでいれば真実が分かったはずだった。ああ、何で私は寝てしまったの?

本の世界に入ってしまうと分かっていたら絶対読了していたのに。


後悔しかない。がっかりしてやる気がなくなそうだけど、今はこの苦痛な夜会をどうやり過ごすか決めないと。

ずっと広間に居るのは息が詰まる。

ある程度時間が経ったら、そっと抜け出そう。

テラス以外でどこか休憩できそうな所があればいいけど。