「皆、走ってください!」

「え、ええ!」

私はマリアさんの手を引いて弾かれたように走り出す。

今のって誰かに弓を放たれたってことだよね? 

誰が狙われたの? 私? それともマリアさん?

分からないけれど、大ピンチであるのは間違いない。

もし矢が体に刺さったら、一気に重体だもの。

マリアさんの苦しそうな息遣いと、フランツ夫人たちが追いかけて来る足音が聞こえる。

どうか誰も怪我をしませんように……。

それにしてもどうして今日に限って護衛がいないの? いつもその辺をパトロールしているのを見かけるのに。

必死に走って庭を抜ける。この先には薔薇の庭園でさすがに護衛がいるはずだ。

ほっとしかけたものの……あれ、薔薇の気配が全くない。

それどころかますます殺風景になって来ている気が……まさか、いつの間にか方向を間違ってた?

ざっと血の気が退く。どうしよう、人がいない方に来たらまずいじゃない!

信じられないミスに頭が真っ白になる。

その時、男の怒鳴り声が聞こえて来た。

「向こうに逃げた、探せ!」

探せって私達のことだよね? 
どうしよう!

「きゃあ!」

マリアさんが小さい悲鳴を上げ、掴んでいた手が離れる。慌てて振り返るとマリアさんが芝の上に倒れていた。

「マリアさん、大丈夫⁈」

「はい、ごめんなさい私」

「大丈夫、早く立ちましょう」

ぐいっとマリアさんの体を引き上げる。アリーセの体は華奢なのでこんな場面では結構辛い。

「王妃様」

フランツ夫人とメラニーが追い付き、手を貸してくれた。

「フランツ夫人、ここはどこ?」

「薔薇の庭園の近くですわ。あちらに進みましょう」

良かった、それ程外れていなかったんだ。

ほっとしたその時、再び男の声がした。