「大変な目に遭いましたわね」

翌日、フランツ夫人にランセルとのやり取りを話すと、大層驚かれた。

「ほんと、考え無しに国王陛下を追ったのが悪いんだろうけど、あの時はそこまで考えられなくて」

ほぼ条件反射のようなものだ。

ランセルが上手く隠しているようで、昨夜の出来事は公になっていないようだ。

元々国王が引きこもっているから、部屋で寝た切りでも誰も怪しまない。

「王妃様の気持ちは理解出来ますわ。国王陛下と一言も話せなかったのですよね?」

「ええ。でも顔は見れたの……想像と全然違っていて驚いた」

意識を失って倒れている姿はどこにでもいるような初老の男性に見えた。

国王が五十を幾つか超えているのは知っていたけれど、頭の中では貫禄に溢れ近寄りがたいオーラを放っている中高年を思い浮かべていたのだ。

ランセルの父親だから若い頃はさぞかし美形なんだろうなと思っていた。

だけどふたりは全く似ていなかった。

遺伝は完全に無視されている。言われなければ親子と気付かない。