虐げられた悪役王妃は、シナリオ通りを望まない

その証拠に私は急ぎ足だったけど、追いつけなかった。

急に具合が悪くなったの? 慌てて倒れたままの国王に駆け寄る。

「大丈夫ですか?」
初対面であることを気にしている余裕などなく、毛足の長い絨毯に跪き様子を確かめる。

「聞こえますか?」

声を大きくしながらそっと肩に触れる。

その瞬間、私はびくりと体を強張らせた。

国王の体がまるで氷の塊のように固く、ひんやりとしていたから。

まさか……。

心臓がドクドク打つ音が頭に響くようだった。

そんなことがあるわけがない。だってさっきまで普通に歩いていたじゃない。

震える手を国王陛下の口元に持って行く。

「え……息してない?」

一気に血の気が引いた。そんなまさか……。

混乱しながらも、フラフラと立ち上がる。

とにかくこのままにはしておけない。早く医師を呼ばなくては。

助けを求め部屋を出ようとしたその時、突然扉が開き私はびくりとその場で立ち尽くした。

「え? ランセル殿下?」

自ら扉を開いた彼は、私が部屋に居たことに、戸惑っている様子だった。

「なぜあなたがここにいる? 国王陛下は……」

ランセルは言葉の途中に室内の異変に気が付いた。

床に倒れる国王を視界に収めると、低い呻き声と共に駆け寄る。

「国王陛下! どうなさいました?」

彼は私とは違い軽々と国王陛下の体を助け起こす。と同時に悲痛な叫びをあげた。

「まさか! 誰か来てくれ!」