虐げられた悪役王妃は、シナリオ通りを望まない

フランツ夫人に止められたけれど、国王の姿をようやく確認出来たのだもの。

今を逃したら次にいつ機会が訪れるのか分からない。

「出来るだけ早く戻るからこの場は誤魔化しておいて」

ドレスの裾を翻し、急ぎ広間を出る。

国王は私室に戻ったのだろうか。ランセルも後を追っていたようだけど……。

とりあえず国王の私室に向かう。

大がかりな夜会を行っている為か、王宮内に人気はなく寒々しい。

国王の私室に繋がる廊下には、先日道を塞いでいた護衛の兵士はいなかった。

初めて通る廊下を進むと突き当りに両開きの扉が有った。

ここが国王の部屋……緊張感が襲って来てごくりと息を呑む。

それでも躊躇ずに扉を叩いた。

ノックの音が静かな廊下に響く。部屋の中でも大きく聞こえているはず。

けれどしばらく待っても何の反応もなかった。

無視されてる?

私は眉をひそめながら、もう一度扉を叩き、それから意を決して許可がないまま扉を開いた。

どうしても国王に会いたかった。会えれば今の状況に変化が訪れると思たから。

きっと良い方向に進むと信じて。

だけど扉の向こうには予想もしていなかった現実が待っていた。

広い居間の中央、高価な絨毯の上に国王陛下がうつ伏せに倒れ伏していた

嘘、どうして? 広間で見た時は具合が悪そうには見えなかったのに。

しっかりと自分の足で歩いていたし、足取りもゆっくりしたものではなかった。