虐げられた悪役王妃は、シナリオ通りを望まない

好きな人がいるのは仕方がない。王太子だってひとりの人間なのだから。

でもこんなやり方はないんじゃない?

婚約を断ると伝えるのなら、どこか別の場所ですればいいのに。

こんな公の場で恥をかかせるようなやり方をなぜするの?

不快感でいっぱいになりながらと成り行きを見守っていると、突然広間が静まり返った。

同時に貴族達が道を空けるように壁際に下がる。

え? 何事?

皆が注目している方に目を向けた私は、驚きに息を呑んだ。

王族専用の出入り口に、いつの間にか男性が三人いた。

華やかな夜会には相応しくない飾り気のない黒衣は襟もとから足までを覆い、その人の体型を分かり辛くさせている。

だけどあの人は……もしかして国王?

人びとの注目を集めながら国王は、ランセルの元へ向かって行く。

距離が遠く声が聞こえないけれど、ランセルの様子からとても驚いているのが伝わって来るから、この状況は彼にとっても思いがけないことなのだろう。

国王はランセルと何か短い会話をすると、入場して来た扉から出て行ってしまう。

その間、私の方に目を向けることは一度もない。

ランセルがマリア嬢を連れて国王陛下を追うように広間を出て行くと、広間に騒めきが戻って来た。

皆が今の出来事に驚いている。突然の国王の登場に驚愕していた私も我に返り、椅子から立ち上がった。

国王を追わなくちゃ!

「王妃様、今席を立つのはよくありません」