虐げられた悪役王妃は、シナリオ通りを望まない

子爵令嬢という身分とメリットの低い相手を選ぶ、情は有ったんだ。

そんなことを考えながらランセル達から視線を外した私は、偶然視界に入れた光景に身体を固くした。

貴族用の出入り口に大層着飾ったユリアーネの姿が有ったのだ。その後ろには公爵とエルマ様の姿がある。彼らがランセルの状況に気付くのは時間の問題。絶対に揉めそう。

ワルツの音楽が終わり、ユリアーネ達が広間の中央に移動し始めた。

彼女はなぜか私に向かい笑顔を向けたものの、一瞬にして顔を強張らせる。

「今の……なに?」

思わず呟くと、フランツ夫人が声を潜めて言う。

「王太子殿下を探しているのですわ」

なるほど。ランセルがいると思って笑顔を向けたのに、居たのは私だから怒ってしまったのね。

あの起伏の激しさで、子爵令嬢の存在に気づいたらどうなってしまうのだろう。

ランセルの様子を確認すると驚くことに、次の曲もふたりで踊ろうとしていた。

私は慌ててフランツ夫人に聞く。

「二曲続けて踊るのは夫婦か婚約者だけよね?」

「はい。他の者にマリア嬢を妃に選ぶと周知したいのでしょう」

やっぱり。

ユリアーネの方を見遣ると、ランセルを発見した様子で、その場で立ち止まっていた。

きっとショックを受けているのだろう。

さすがに可愛そうだ。これはランセルが酷い。