ノクターン


ホテルの駐車場に停まっていた車は、白のレクサス。

智くんは、先に助手席のドアを開けてくれた。
 


静かに走る車の中で、二人で前を向いていると、少しほっとする。
 
「どこへ連れて行ってくれるの?」

日没の早い秋の空が暮れはじめていた。

智くんは、スムーズな運転で高速道路に入っていく。

このまま、帰れない世界へ連れて行かれたい。

そんな思いで胸がいっぱいになっていた。
 


「横浜までドライブして 食事しようね。」
 
「わあ、うれしい。でもなんか不思議。智くんと会ったの2日前って感じがしなくて。」

智くんと会えなかった10数年が 一瞬で埋まっていく。
 
「本当だね。でも俺達、昔からの付き合いだから。あの頃は二人とも 小学生だったけどね。」
 

「智くんが来なくなって、夏休みはすごく寂しかったよ。」

素直な心がこぼれてしまう。智くんは温かく私を見つめた。
 
「俺も、夏になると軽井沢に行きたかったなあ。」
 
「嘘ばっかり。東京で楽しく遊んでいたくせに。」私は少し膨れて答える。
 
「本当だって。受験勉強しながら 麻有ちゃん何しているかなあ、って考えていたよ。」

智くんの言葉一つ一つが胸を熱くする。


ただの幼馴染みなのに。私の心は智くんへの思いでいっぱいだった。