ノクターン


落ち着かなくて早めに家を出た。

待ち合せた西口交番前に着いたのは 約束の15分前だった。

土曜の夕刻で駅からは たくさんの人が吐き出されてくる。


智くんを探して駅の方を見ていると
 
「麻有ちゃん、お待たせ。」と後ろから肩を叩かれた。
 
「えっ!どこから来たの?」

不意を突かれて、私は完全に無防備だった。


智くんは、笑顔で後ろの歩道橋を指さしながら
 
「むこうに車停めてきたから。」と言った。
 
「行こう。」と私を促して、智くんの来た道を並んで歩く。
 


智くんと会った時の 最初の挨拶や会話を

色々シミュレーションしていたのに。

全部真っ白になってしまった。
 


やめよう。背伸びをすることも、考え過ぎることも。

子供の頃のように、打算や駆け引きのない私に戻ろう。

智くんに追い付きたくて勉強したことや就職したことも すべてがどうでもいいと思えた。