「じゃ、もらうね」

何が楽しいのか夏目くんは終始ヘラヘラした顔をしながらココアを一口飲んだ。

本当にこういうこと誰とでもできちゃう人なんだな。

昨日までの印象とは全然違うからいまだに本当にこの人があの夏目涼々くんなのかと疑ってしまう。

「ん、美味しい」

「はい」と言ってココア缶を返されて自然と受け取ったけど、正直もう飲む気になれない。

こんなの……意識しないで飲める人なんているんだろうか。

裏の顔は最悪だけれど、これでも表向きは、品行方正、容姿端麗と言われてる夏目くんなんだから。

そりゃ、気になってしまう。

保健室では体調が思わしくないこともあって、あまり冷静に考えられなかったけど。

私の隣に座ってるこの人は、人気者の夏目くんなんだ。

そんな気持ちと同時にやっぱりまだ引っかかる。

「本当は?」

「ん?」

どうして夏目くんが体育だけサボるのか。

っていうか、いくら先生たちから信頼されてる夏目くんでも、彼だけ特別にサボりを許してもらえるなんておかしな話だ。

うまく話をそらせた気でいたのかもしれないけど、私はその瞳に騙されないんだから。