「……夏目くん、字綺麗だよね。男の人の字とは思えない……」

「えっ、あっ……」

菜花さんが、俺の手元に敷かれた原稿を覗き込む。

一気に彼女のシャンプーの甘くて優しい香りが鼻を抜けて。

バチッと視線が絡んで。
やばい、と思った。

心臓の音が一気に加速して。
身体中が熱くなる。

郁田さんの顔が、だんだん近づいてきて。

「……っ、」

やめて、郁田さん。
それ以上、近寄らないで。

「んんっ。郁田さん、喉乾かない?」

咳払いをして、鞄から財布を取り出しながらあくまで自然を装いながら、彼女から距離を取る。

「何か買ってくるよ。郁田さんなにが飲み──」

「え、じゃあ一緒に……」

「ダメ」

俺が立ち上がったのと同時に、立ち上がろうとした彼女に、思わず。

きっぱりとそう言ってしまった。

すると、みるみるうちに郁田さんのまぶたが降りて。

うつむいてしまった。

違う。
間違えた。
そうじゃない。
なにやってんだ。