この人と関わると絶対ろくなことない。
こうなってしまったのも、夏目くんのせいだもん。
夏目くんが、あの瞬間、保健室に入ってこなければ、私はこんな目に合わずに済んだんだ。
すぐに夏目くんから目を背けて、無視するようにふたたび階段をのぼろうと踵を返した瞬間──
「ちょっと待ってよ」
肩に手が置かれて、自然と足が止まる。
「……なんですか」
ため息混じりに声を出す。
この人に敬語なんて必要ないって思っていたけど無意識に使ってしまうのは出来るだけ距離をとりたいからだろう。
本性を知る前の敬語とはワケが違う。
私なんかにかまわないで、ちやほやしてくれる女の子のところへ早く行けばいいのに。
それか、いつも相手してもらってるっていう人のところへ。
「貸して」
「はっ……」
夏目くんの手によってひょいっと持ち上げられたのは、私の手の中にあったクラス分のノート。
「な、なにしてるんですか」
「郁田さん体調悪いんでしょ」
「……まぁ」
「ここのぼって左に曲がったらすぐのところに非常ドアがあるから。そこの階段で休んでて。ちょっと外の空気吸った方がいい」
「え、あ、いや、あの、夏目くんは……」
まさか、夏目くんにノートを持ってもらえるなんて思わなくて、わかりやすく戸惑ってしまう。



