「おっ、噂をすれば!!本人登場じゃん!」
「夏目!学校休んで彼女とお泊まり旅行だって?いつからそんなワルい奴になったんだよお前はよー!」
廊下の向こうから聞こえる、男子たちの冷やかすような声。
え。なに。今、夏目くんって言った?
どんな顔をしてるの。
何をしてたの。
聞きたいこと、確認したいこと、たくさんあるけれど。
そもそも、私に聞く権利なんてあるの?
「……菜花、夏目くん来たって!」
「ごめん、私ちょっとトイレ……」
「え、ちょ、菜花?!」
みんなの目も見ないまま席を立った。
とにかくSHRが始まるまではどこか静かな場所に行きたくて、教室を出た。
聞きたくない、見たくない。何も。
この数日、夏目くんは誰のことを考えていたんだろう。いやそんなの決まってるじゃん。
だから私のことなんて無視したまま学校になんてこられるんだ。
夏目くんにとって大切なのは、別の誰かだから。
悔しい。
たくさん気になって、心配して。
私の気持ちだけが変わって、勝手に意識して。
ガラッ
教室を出て、人だかりとは反対の廊下を進もうと踵を返した瞬間。
「郁田さんっ!」
その声に、条件反射のように胸がトクンとなった。
こんな時にもドキドキしてしまう自分に腹が立つ。
何日かぶりの夏目くんの声。
……なんで、呼んだりするのよ。
全部の気持ちをグッと堪えて、振り返らないまま。
一瞬止めた足を、再び進めて。
「……夏目くんが呼んだのになにあの態度」
誰かのそんな声が聞こえたけど、拳に力を入れたままその場を後にした。



