──ズシッ
「重い……」
持てないほどではないけれど、調子の悪い時に持つ重さじゃないことは確かだ。
教室があるのは3階。化学準備室は1階。ただ階段を上るだけでもすぐ息が切れそうになるのに。
目の前に立ちはだかる、長い階段。
階段の数がいつもの倍に見える。
こんなもの持ってのぼるなんて。
こんなことしてる間にもお昼休みだってどんどん削られていくし。
はぁ……。
嫌になりながらも階段を数段のぼって、やっと2階の踊り場までついて立ち止まっていると、
「郁田さん?」
後ろから名前を呼ばれたので、ゆっくりと振り返る。
「……げ」
お手本のように綺麗に着こなされた制服によく似合う清潔感のあるサラサラのミルクティーヘア。
色気と品を兼ね備えた薄い唇にスッと高い鼻筋。
今私が一番苦手としている人物だ。
「さっきぶり。人の顔見てそんな声出さなくても」
濁りのない綺麗なアーモンドアイが、さらに私を煽ってるかのよう。
あんなふしだらな発言ばっかりしてて、どうしてこんなに目が綺麗なのかムカついてならない。



