反対からやってくる人たちと身体がぶつかりながらもなんとか進んでいると、
「郁田さ──」
「郁田っ」
「えっ、ちょ、」
今、確かに夏目くんに名前を呼ばれた気がしたけど。
人混みの中、隣に立っていた泉くんにそのまま手を引かれて。
あっという間に、一緒に歩いていたみんなが見えなくなった。
「あの、泉く、」
「見てよ」
後ろを振り返りながらみんながいなくて不安になっていると、泉くんにふたたび声をかけられて、渋々顔をあげる。
「えっ……」
目線の先に見えたお店の看板には『菜の花』と書かれていた。
「この商店街調べてる時に見つけてさ。菜の花って郁田じゃんと思って。ちょっと気になってたから。中入って見ようぜ」
「あ、う、うんっ……」
とっさにそう返事をして、お店に入ることになったけど。
意外だった。
まさか泉くんが私の下の名前を知っていたなんて。
いや、同じクラスメイトなんだから下の名前ぐらい呼ばなくても知ってるだろうと言われたらそりゃそうなんだけど。
でも……。
私の中で泉くんは、光莉を通して仲良くしてもらってる人って印象だったから。
お店に入ると同時に泉くんにつかまれていた手が離れて、どこかホッとしてる自分がいた。



