「見て見ぬ振りして気付くのを怖がっていた気持ちに、郁田さんが寄り添ってくれた。ちゃんと。だから謝ったりしないで」

「……っ、う、うん。あり、がと」

「ハハッ。そんな固まるかな」

「だって夏目くんがいつもと違うから」

「うん。なんでだろうね」

なんでだろうねって……。

意地悪で自分勝手に触れてくる時の彼じゃないから、どうしていいかわかんないよ。

「あの、わかったから手」

「ん?」

「手、離してよ」

「あぁ……」

曖昧な返事をして夜空を見上げた夏目くんが、ゆっくりと視線を落としてこちらに視線を合わせる。

「やだ」

「はっ……?」

「俺決めたから、郁田さんのこと離さないって」

「いやいやいや!!」

歩き出そうとする夏目くんを引き止める。

「あれ、それともまだ、帰りたくないのかな?」

「はぁん?」

「もう意地悪しないから、覚悟しててね。菜花ちゃん」

夏目くんはそう言って満足そうに笑うと、私の手を引いて歩き出した。