俺と目を合わせないようにギュッと目を瞑る彼女を見て。

『俺が欲しいのはこれじゃない』って、瞬間的にそう思った。

自分の欲求不満解消のためなら、彼女の気持ちなんてどうでもよかったはずなのに。

変なの。

自分の過去を誰かに知って欲しいなんて。

そんな風に感じたのは生まれて初めてだ。

「8年前、家が火事にあってさ。隣の家の火が燃え移ったらしいんだけど」

「え、」

静かに言葉を発したら、郁田さんの表情が変わった。

「これは、その時の火傷の跡ってこと?」

「うん」

「そうだったんだ…………大変、だったね、」

あからさまに困惑した表情を見せる郁田さん。

俺のことなんて嫌いなはずなのに、そんな俺のために、かける言葉を必死に探して選んでる姿が無性に可愛くて。

気まずい空気にさせてるのはわかっているけれど、彼女の気遣いが沁みた。