「私……初めてお会いしたときからずっと、ベイルさんのことを……」

 ドキドキと緊張が、私にまで伝わる。後姿しか見えないミレイさんの、うなじと耳が赤くなっているのがわかった。

「お慕いしておりましたの……。もしよければ、気持ちだけでも受け取ってもらえませんか……?」

 差し出したクッキーの包みから目を逸らすように、うつむくミレイさん。ベイルさんは神妙な顔のまま、その包みに手を伸ばした。

 手の上の包みがなくなって、ミレイさんが顔を上げる。

「ありがとうございます、すごく嬉しいです。でも、気持ちだけなんて言われると、少しさびしいですね」
「えっ」

 ベイルさんは、照れくさそうに微笑んでいた。

「俺のほうも、毎日お会いするミレイさんが気になっていたんですよ。できればお友達から始めてもらえるとうれしいんですが。その、普段むさくるしい男たちに囲まれているもので 恋愛経験がなくて……」
「は、はい……!」

 そうしてふたりは、握手をした。

 見えなくても、ミレイさんが今どんな顔をしているのかわかる。きっと、目にいっぱい涙をためて、でも花のような笑顔を、ベイルさんに向けているのだろう。

「よかったね、ミレイさん……」

 もらい泣きした涙を、扉の陰でぐずぐずと拭っていると。

「うまくいったようだな」
「わっ」

 頭上から、アルトさんの声が降ってきた。

「い、いつの間に……」
「今日はベイルの邪魔をしてはいけないとわかっていたからな。お前たちがいつ告白をしてくるかわからないから、店には入らず陰からベイルを見守っていたんだ。終わったようだから出てきた」
「近くにいらっしゃったんですか? 全然気付きませんでした……」
「お前が、ベイルにばかり集中していたからだろう。俺が近寄っても気付かなかったんだからな」

 アルトさんの口調は、なぜだか少しすねた雰囲気だった。すみません、と謝ると、今度はそわそわしだした。

 なんだろう。今日は情緒不安定な日なのだろうか。

「あ、あの、アルトさん?」
「そういえば……。俺のぶんのチョコレートはあるんだろうな? 今日はその、バレンタインというやつなんだろう?」
「あ、はい! もちろんです」
「な、なに?」

 自分で訊いておきながらうろたえるアルトさん。まったくわけがわからない。

 ベイルさんとミレイさんにちらりと目をやると、周囲が目に入らない様子で会話を交わしていた。あまりここで見ていないほうがいいだろう。お客さまが来店されたら驚くだろうし。